サイコロを描くことは難しい | 佐藤秀峰 | note
僕は漫画家です。漫画を描くことが仕事です。一人では原稿を量産できないので、作画スタッフと一緒に漫画を製作します。さて、ある日、新人作画スタッフがやって来ました。彼は20歳の若者で、将来漫画家を目指しています。まずは簡単な絵を描いてもらいましょう。じゃあ、サイコロ。実際にサイコロを手渡し、「そっくりに描いてください」と言いました。すると最初に描いてきたのはこんな絵。制作時間は5分。「もっと難しい絵を描かせてくださいよ」と意気込んでいます...
この出題、ちゃんと絵の勉強をした人なら、難しい課題ではないような気がしますが。
多分、プロの画家なら、写真と見紛うほどの写実的な絵を描ける人も多いはず。
でもそれは「マンガ」じゃないと思う。
マンガというのは、単に絵を上手に描く作業ではないと思う。絵をいかにデフォルメして記号化するかという技術、そしてそれにどうオリジナリティを持たせるかという個性が必要になる。
さらには、絵を描くのが仕事ではなく、むしろストーリーを創作する能力のほうがはるかに問題だったりする。
佐藤さんは何を求めて出題したのだろうか?どんな絵を描けば正解だったのか?
いろいろ試行錯誤させる事を教えるために、つまり単に悩ませるために、何を持ってきてもNGを出すつもりだったのか?
私はそういう禅問答みたいな試験は大嫌いだが・・・
しかし・・・いくらなんでもプロを目指すにはオソマツ過ぎる答え(絵)だ・・・(笑)
答えを教えずにリテイクを出し続けたのは、漫画家としての将来のために役立つように、愛ある出題であったと思う。
ただのアシスタントマシーンがほしいなら、きっちり答えを指導してやればよかっただけなのだから。
いまや漫画家は3K職業と言われる時代
原作者と作画者の分離作業も当たり前になっている。
そうなると、生き残るために身につけるべき能力は、また違ったものになっていくだろう。
ライバルが多い職業ほど、その仕事で食っていくのが難しくなる。
職業選択は人生の大半を決定する。
自分の好きなことを職業にできる者など、ほんの僅かだ。
それを実現するには、たくさん居るライバルに持っていない何かが必要になる。
それは、他の人が持っていない能力を見つけるために費やす多大な努力だったり
あるいは貧しい生活に耐える事だったりするかもしれない。
その何かを得るためには、他の人間が払っていない何らかの代償を払う必要があるのだ。
最初からその何か(才能)を持って生まれた人間も中にはいるかもしれないが、それはたまたま大金持ちの家に生まれた、というようなもの。それはそれで幸せなことであるが、庶民の家に生まれた自覚のある者は、なんらかの対価を支払う必要があるわけだ。
人生は、難しく、厳しい。
上記の漫画家希望の若者も、漫画家になることが本当に実現したい夢であるなら、負けずに耐え、いつか成功するだろう。
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